=教皇ヨハネ・パウロ二世葬儀、日本政府の判断=

2005.04.11
ノムラカツヨシ

【頂いた反論、賛論、資料】

<<(共同通信) - 4月6日20時43分更新
首脳級の参列なしに疑問 仙谷氏、法王葬儀で
   民主党の仙谷由人政調会長は6日の記者会見で、ローマ法王ヨハネ・パウロ二世の葬儀への政府対応について「各国は(現職の)首脳が参列するのに、小泉内閣はそういうことになっていないのはいかがか。少し(感覚が)ずれているのではないか」と述べ、疑問を呈した。
   葬儀には、ブッシュ米大統領、アナン国連事務総長らが参列予定。政府は川口順子首相補佐官(前外相)の派遣を決めたが、主要8カ国で首脳級が参列しないのは日本だけとなっている。各国・国際機関のトップが集まるため「弔問外交」の展開が予想されている。

 

From: 野村かつよし
Sent: Sunday, April 10, 2005 10:46 PM
To: ysc@******
Subject: [ysc 7605] 政治の判断

教皇様の葬儀ミサに、日本からは川口順子首相補佐官(の程度)が参列したことについて、Fさんが怒り、Mさん、 Iさん、Yさんが同調しました。以下は決して皆様への反論ではありません。
その証拠に私は、
  > Sent: Sunday, April 03, 2005 9:21 PM
  > Subject: [ysc 7530] 教えて下さい
において、
  > 日本からも政府高官(総理あるいはその経験者、閣僚の誰か等)又は
  > 皇室より、日本という国家を代表して“官費”で参列するでしょう。

と発言しています。又、
  > Sent: Sunday, April 03, 2005 9:32 PM
  > Subject: [ysc 7531] Re:(2/2)教えて下さい
では、
  > 皇族は勿論、小泉総理にも参列して欲しいくらいです。(可能性はある
  > と思います。当然、「政治的判断」に基づいてでしょうが。)

と記しています。
川口補佐官の派遣は、私にとっても意外でした。これを前提としてお読み下さい。
 

私の仲間も怒って、要旨次のようなメールを呉れました。

> ・・・しかしもうご葬儀も終わりましたので、言わせて頂きますが、
> 日本政府を強く非難します。
> 各国が元首級の人をご葬儀に参列させているのに、日本政府は
> 川口元外相を送っているだけ。天皇か、すくなくとも、皇太子ある
> いは、首相が参列すべきであった。
> 元外相では国際的に非礼というよりほかはない。
> 日本政府はどうこの責任をとり、どう決着を付けるのか。


私のコメントは下のようなものでした。

1.天皇の参列はあり得ません。天皇は葬儀に出ません。皇族方の葬儀に対してもそうです。高円宮葬儀にも天皇は参列しておりません。

2002/11/21 高円宮様ご逝去
        11/22  天皇皇后両陛下 行幸啓(ご弔問)(高円宮邸)
        11/23  天皇皇后両陛下 行幸啓(お舟入当日ご拝礼)(高円宮邸)
        11/27  天皇皇后両陛下 行幸啓(正寝移柩当日ご拝礼)(高円宮邸)
        11/28  天皇皇后両陛下 行幸啓(霊代安置当日ご拝礼)(高円宮邸)
        11/29  (高円宮様「斂葬の儀」)(御葬儀)
                  天皇皇后両陛下 ご会釈(勤労奉仕団)(蓮池参集所)
                  天皇陛下 ご執務(宮殿)

        11/30  天皇皇后両陛下 行幸啓(斂葬後一日墓所祭・墓所十日祭の儀当日御拝礼)
                 (豊島岡墓地)

2.昭和天皇の御大葬の際、ヴァチカンから参列したのは(閣僚でない)枢機卿でした。(手持ちのVTRに名前が記録されていれば、追って記します=2005.04.18.VTRでの確認によれば、オッティー枢機卿と聞こえました)。相互主義の原則でいうなら、前外務大臣・首相補佐官は、地位として決して儀礼に反しておりません。

3.東京カテドラルでの教皇追悼ミサには皇太子様が参列されました。配慮は行き届いていると思います。

それでもなお、各国首脳、錚々たるメンバーが参列したのに、日本が出ないことは「政治的失態」ではないか、との批判が、当然あり得ます。そして、小泉純一郎という 類い希な「政治的人間」が、その考慮をしなかったはずはないと私は思うのです。葬儀は政治家にとっては政治の場です。(私たち営業マンにとっては正に商売の場です)


それでは仮に小泉総理が参列したとして、ヴァチカンからどのような待遇を受けたでしょうか?
ある場における政治的プレゼンスとは、端的にはその席次で表現されるでしょう。ヴァチカンは小泉総理に、いかなる場を与えたでしょうか。

経済力を基準にヴァチカンが判断すると思えません。アルファベット順でしょうか?
私に想像できるのは、その国におけるカトリック教徒の数と思います。すべてではないでしょうが、大きな要素であるはずです。
その仮定が正しいとすれば、日本(小泉総理)はどのような場所へ坐るでしょうか。

カトリック中央協議会編纂『カトペディア2004』によれば、 日本でのカトリック信者数は世界主要105カ国のうち71位です。但し首位ブラジルの1000分の3、三位アメリカの1000分の7に過ぎません。43位の韓国に比べても、ほとんど10分の1です。(→資料1
総人口に占める信徒の割合ではどうでしょうか。日本は 0.35%、105カ国中の94位です。タイもミャンマーも、イラクですら日本より上です。(→資料2
アジアにおける信徒数順位はどうでしょうか。25カ国中11位です。(→資料3
同じく、信徒比率はどうでしょうか。26カ国中22位です。(→資料4


日本はこのような位置付けです。アジアにおいて、信者の絶対数は勿論その人口比率においても、わずかにバングラデシュ、トルコ、イラン、ネパールを凌駕するのみです。 日本は主要8カ国はいうに及ばず、50カ国にも入りません。

私の結論はこうです。
小泉総理が参列したとしてもブッシュや、“ヴァチカンの長女”フランスから遠く離れた、川口順子補佐官と同じような場所しか与えられなかったで しょう。ヴァチカンの判断基準は世俗のものと違うのです。ブッシュやシラクに握手しようにも手の届かぬ場所だったことでしょう。( ヴァチカンからすれば当然のことですが、一般の日本人から見れば、屈辱的と感じる場所しか与えられなかったと思います)

「政治的にプラスでない」
と政治人間・小泉は判断したと思います。
(小泉さんが参列し、片隅におかれている姿を想像して下さい。それを見てマスコミ・評論家が何を言ったかをも)
冒頭の民主党・仙谷由人政調会長の批判は、一般的な言葉です。多くの人がそう感じたでしょう。評論家・コメンテーターもほとんどがそう言っています。
いつもその言動を検討していくうちに見出すのは、小泉純一郎という人の判断の、冷静、妥当さです。驚嘆します。
私たちは小泉がパフォーマンス政治と対極にいる男だということを、いい加減に気づかねばならないでしょう。彼が、わざとそう思わせるようにしているきらいもありますが。

今回の政府の判断に(私たちカトリック教徒が)不満をいうのはいいでしょう。
しかしそれ以上に、日本のカトリックは為すべき本質的なことを考えねばならぬと思います。 宣教者(聖職者・信徒とも)は宣教しなければならない。今、その熱意がどこにありますか? 100年を超えて 0.35% の組織率。(しかも実効人数はもっと少ないと私は思います。統計上は増えていますが、その為に聖堂が狭くなったという話しを聞きません。増築の話しを聞きません)。会社人間ならばとっくに 失格でしょう。聖職者は、0.35% という数字をどう考えますか? 諦めてしまったある一群は(あるいはもともと宣教が目的でなかったのか)政治活動に走っているようです。

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メモ代わりの追伸です。
1.アメリカ現職大統領が初めて参列しました。ブッシュ再選にはカトリック票の動きが大きかったと言われております。
2.台湾総統が参列する故に中国は行きませんでした。イタリアが陳水扁総統にビザを発給したのも、政治的決断でした。
3.私自身は小泉さんが教皇様の葬儀に参列し、帰国後あまり間をおかず、靖国へ行って欲しかったのです。つまり個別でなくワンセットと捉えられる範囲の間です。政教分離を叫ぶ人はどう反応したでしょうか。

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